きらい
「君のその目が嫌い」
「目?」
「そう、全てを見透かすようなその目」
「へえ」
「気味が悪い」
「非道いこと言うなあ」
「君のその口が嫌い」
「くち、ねえ」
「いつだって何者をも欺こうとする」
「僕は至って正直者だよ」
「真実を語ってるつもりなの?」
「真実かはともかく在るのは事実だけさ」
「君のその手が嫌い」
「何の変哲もない手だよ」
「すごく掻き乱される」
「指一本触れていないよ、まだ」
「そうやって態と巫山戯るところも嫌い」
「ああ、そう」
「君は寝込みを襲っても殺せなさそう」
「僕のこと何だと思ってるの?」
「何だと、思われたいの」
「紛れもなく人間だけれど」
「そうやって飄々と定義付けるところも嫌い」
「言ったでしょう?在るのは事実だけだと」
「君は人間として許されないことをしている」
「許す?許さない?許されないとどうなるんだい?」
「罰を受ける」
「そうすると人間ではなくなる?」
「…ほんとうに、嫌い」
「嫌いで結構、僕は君に許しは乞わないよ」
「乞われたところで許したりしない」
「悲しいなあ、僕はそんなに嫌われているんだ」
「すごくすごく嫌いだよ」
「ああ、そうかい」
「幾度罰を受けても何事もなく戻ってくる」
「そりゃあ、受けるだけならね」
「本当に気味が悪い」
「僕は君にどういう風に映ってるのかな」
「人間」
「へえ」
「でも人間じゃない」
「矛盾しているね」
「放棄してるでしょう、人間を」
「少し違うかな」
「どういうこと?」
「僕は人間を放棄は出来ないよ」
「僕が人間で居たいから人間なのではなく」
「人間として産まれついた僕が」
「行き着く先は全て人間の可動域なんだ」
「罪を犯す?罰を受ける?」
「罰が生じてる時点で想定内でしかない」
「僕らは皆、過去の劣化品であり」
「過去を糧にした最高傑作でもある」
「独創性を自惚れちゃいけないよ」
「居るとするならばそれを決めるのは神の役割だ」
「僕は人間でしかない」
「僕は人間にしかなれない」
「僕は人間以外の何者でもない」
「理解したなら早くおやすみ、
君はもっと倖せに生きていいんだよ」
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