真水



染み付いた匂いが取れなくて
必死に、必死に手を洗った
馴染んでしまう自分が怖くて
何回も、何回も泣きながら洗った
心許ない蛍光灯のあかりが
視界の隅でチラチラと喘いでいて
一緒に泣いてくれてるみたいだった
少し、許されているような気がした

君を好きで居られる僕が欲しかった
君を大事に扱える僕が欲しかったよ
変わらなくても、変えられなくても
ぜんぶにいいよって言いたかった
僕のエゴで護りたかったんだ
僕のエゴで守られて欲しかったんだ
視界を遮る君の手はいつも優しくて
でもひどく攻撃的だった
それでも、いいよって、
言える僕のままで居たかった

凪いでしまうのは僕の独り善がりだ
膝をついたまま動かないのも僕の我儘だ
可哀想で可愛い僕の演目で
良い子だねって褒めて欲しかった
少しで足りるだなんて嘘だよ
全部飲み込んで消化したいんだ

終わってしまう音がする
それは別に良いかなって、ぼんやり思うけれど

浮遊感の抜けない身体で
見つめる先の潔癖だけが現実
僕のことは知らなくて良い

勝手に象徴にして
勝手に消費しないでね

重力に負ける水滴は汚くて
無機物の中で僕はひとりだ
いつも融けて流れている気がする
嫌な効果音と、嫌な表現文句
「知らない振りしてごめんなさい」
「違和感を持ってごめんなさい」
僕はどうすれば綺麗に成れるのかなあ



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