おやすみ、リリィ。【0:2】

女性2、会話劇
りお=理央
わかな=若菜



りお:この前死のうと思ってさ、大量に睡眠薬飲んだの
わかな:へえー?
りお:でも死ねなくてさあ
わかな:ああね、なかなか死ねないもんよね
りお:胃洗浄とかされてめちゃくちゃ気持ち悪かったし、お医者さんにもめちゃくちゃ怒られた……
わかな:そりゃそうだろうねえ
りお:親にも泣かれるし大変だった
わかな:親からしたらまあ、基本的には子どもは大事だもんなあ
りお:生きるのしんどい
わかな:しんどいねえ
りお:……この手の話、出会ったときからずっとしてない?
わかな:あー、してるかもね?
りお:わたしら知り合ってから何年よ
わかな:えーっと……ざっくり10年?
りお:え、もう10年になんの?早くない?
わかな:早い。時間の流れ早い。こわっ
りお:そりゃあバイト先の新人が、"そのとき自分、まだ産まれてませんでした〜"とか言うわけだわ……
わかな:ああ……それさ、言う側だったときは何も思わなかったけど、言われる側になるとなんか、きっついよね
りお:きっついよ、中身なんにも変わってないのに身体だけ歳取ってんの
わかな:うわ、おそろし
りお:10年も継続してこんな陰鬱な話してるのも、まあどうかとは思う
わかな:えー、でもこういう話出来る相手、めちゃくちゃ貴重だと思う
りお:それは、まあ、ある
わかな:みんなちゃんと生きてて偉過ぎるなって思うし、自分の駄目さに悲しくなるよね
りお:なるなる
わかな:でもその、自分は駄目だーって話をするとさあ、周りはなんかこう、優しくしてくれるじゃん?
りお:うん?
わかな:そんなことないよー!みたいな
りお:ああ、よく言われるやつだ
わかな:でも別にそういうのは求めてないっていうか
りお:はいはい
わかな:いや、なんていうかさ、自分が駄目なことも解ってるけど、自分が駄目じゃないこともある程度解ってるつもりなんよ
りお:あー、まあこう言っちゃなんだけどさ、もっと救いようもなく駄目でしかなかったら、たぶんもっと潔く死んでるよね
わかな:ほんとそれー
りお:ある程度他人から肯定されて、社会的な生活も出来て、表向きはたぶん一般的な人間に見えるだろうに、ひとりで勝手に打ちのめされてる感
わかな:そーれー!だからなんかこう、慰めて欲しいわけじゃないんよ、自分って駄目だなーあははーっていう独り言くらいの感覚なの
りお:わかるわかる
わかな:この前薬がぶ飲みしたのもだし、刃物で自分を切るのとかもだけど、そういうの、自傷行為って呼ぶじゃん?
りお:あー、自分を大事にしろーって怒られるやつだ
わかな:そうなの怒られるの!でも違うんよ、自分を大事にしてるからこそするのであって、決して自分を大事にしてないわけじゃないんよ
りお:圧がすごいね
わかな:だって自分のこと心底どうでも良くなったら、セルフネグレクト極めて餓死すると思うんよね
りお:あー、わかる、余力ないと自分の世話すら出来んなるよね
わかな:そうそう、でも生きる為に心の負担を減らす為に、自傷行為で発散してるわけじゃん
りお:わかるわかる
わかな:別に周りに気に掛けて欲しくてやるってわけでもないしね
りお:まあ、そういう人も一定数居るだろうけどね。ファッションリスカっていうやつ?
わかな:そうそう、ああいうのって感染するし、良くない。咎められる立場でもないけどさ
りお:ミュンヒハウゼン症候群とかでもそうだけど、人間って結局、人間に相手してもらえないと生きていられないんだろうなあ
わかな:代理の方がタチ悪くない?
りお:まあそれは、そう。他人巻き込んじゃうのはねー
わかな:そう考えると、自分で自分の世話してるわたしら、偉くない?
りお:偉いかもだけど、方法は良くないね
わかな:あはははは、それな
りお:あ、そういえばさ、最近どうなの?
わかな:ん?なにが?
りお:恋人
わかな:あー!あー、えっとねー、相変わらず?
りお:ダメじゃん
わかな:えー……
りお:相変わらず、DVまがいのことされてるってことでしょ?
わかな:まあ、うん、はい……
りお:もうほんと、早く別れなよ〜
わかな:返す言葉もございません……
りお:今までも何回も言ってるし、今さら聞かないんだろうけどさ〜
わかな:うう……
りお:絶対もっといい人居るよ?ていうか、そんな脅しみたいなことしてくるやつの方が少数派だよ。たぶん
わかな:でもなあ、なんかこうさあ、まだめちゃくちゃ好きなんだよ……
りお:それ言われると、もうなにも言い返せないんだけど
わかな:顔が良いと全部許せるって本当なんだなって、思う
りお:思うな思うな、別れてしまえ
わかな:他人事だと思って……
りお:他人事だし
わかな:ごもっとも〜
りお:そもそもわたしはわかなの恋人のこと、最初っから気に入ってないからね
わかな:え、そうなん?
りお:そらそうよ。ぽっと出でわたしの親友盗りやがってって思ってるもん
わかな:なにそれ、可愛いウケる
りお:ウケんな!で、その上タチの悪い相手とか、わたしの気持ちの行き場がなくない?
わかな:ほへー、可愛いな!
りお:うるっさいわ!あ、この話他の人にしたらさあ
わかな:うん?
りお:じゃあ自分がそのわかなって子と付き合えば?って言われたわ
わかな:……付き合うの?
りお:いや付き合わん、そういうのじゃない
わかな:ほお?
りお:感覚的にはこう、保護者
わかな:保護対象だった
りお:だから余計に心配してんのよ、はよ別れなさい
わかな:他人事だと思って〜
りお:だから他人事だもーん
わかな:ていうか、りおはどうなんよ
りお:ん?
わかな:恋愛とか、そういう
りお:あー、わたしはしばらくいいや。もっぱら趣味でやってるつまみ細工で忙しい
わかな:そんなおしゃれな趣味持ってたっけ?
りお:最近始めた。楽しいよ?
わかな:へえ〜
りお:あ、ジュースなくなった。取ってくる
わかな:はいはーい
0:間
りお:今日もいちごミルクが美味しい
わかな:え、わたしいちごミルク苦手
りお:えー?なんで?
わかな:あれはいちごっていうか、香料。香料の味がする
りお:なるほどそこは相容れないわ、わたしはその香料を飲んでるから
わかな:香料ミルクなんよそれ
りお:美味しいもん
わかな:美味しいのはたぶん、香料じゃなくて砂糖
りお:砂糖の甘味は正義だよねえ
わかな:そういやわたしら、もうとっくに成人したってのに、お酒飲みに行ったりしたことないね?
りお:あー、ないね。会って話そー!とはなるけど、飲もー!とはならんね
わかな:そもそもりお、飲めるの?
りお:人並みには飲める、と思うけど
わかな:今日も別に飲んでもいいんだよ?
りお:いや、いちごミルクの方が美味しいし
わかな:お酒の立場のなさよ
りお:飲みってのはさ、お酒がっていうより、人と喋りながら、がいいわけじゃん
わかな:まあ、そうね
りお:わかなとはさ、最早喋ってなくても、一緒にぼんやりするだけでいいやーって感じだし、お酒要らんかなーって思う
わかな:あー、たしかに。この前会ったときは、りおの部屋で延々と、最近読んだ小説の話したよね
りお:そーそー、飲み物とかはもう、水でもいいよ
わかな:今日だってご飯食べに行こーってなって、来たのがファミレスだもんね
りお:会って話すってのが重要なんよ、きっとたぶん。おそらく
わかな:おそらく
りお:他の同級生とかはどうしてるんやろねー?
わかな:えー、どうだろ、そんなに連絡取らんからなあ
りお:取らんよねえ
わかな:りおとは割とずっとしょーもない話ばっかりしてるけど
りお:学生の時よりマシじゃない?ほんっとに無意味に顔文字だけのやりとりとかしてたじゃん
わかな:してたしてた、顔文字だけのメール来るから、顔文字だけで返してた
りお:でもそうやって、だらだらしょーもない話出来る存在、貴重だよねえ
わかな:そーゆーとこ、やっぱりりおは親友だなーって思う
りお:いえーい
わかな:……敢えて中身のある話とか、してみる?
りお:例えば?
わかな:……死生観?
りお:わたしら、ほんとそんな話ばっかりだよねえ……
わかば:好きだし気になるから、仕方ないんだけどねえ……
りお:輪廻転生とか、天国地獄とか?
わかな:そうそう、うつつはまあ、いま生きてるからそれなりにわかるしさ、死んだ後のことって気になるよねえ
りお:でも別に、わたしら何か宗教に入ってるわけじゃないんだよねえ……
わかな:本場の人に怒られそうだね
りお:本場て
わかな:えーっと、本職?
りお:そっちのほうが表現合ってる気がする
わかな:わたしらはさ、知識のいいとこどりみたいなことしてるじゃん
りお:まあーねー
わかな:輪廻転生はさ、相変わらず面白いなーと思うけどさあ
りお:うんうん
わかな:今世でこんなに喘ぎ喘ぎ生きてるわたし、前世で何したんだ……って考えなくはないよね
りお:わっかるう、何、なんか悪人だったの?みたいな
わかな:人殺しでもしたんかな?
りお:えー、どうだろ
わかな:人間自体は、絶対初見プレイじゃないと思うんよ
りお:なんで?
わかな:初見だったら、こんな思考の深いところであっぷあっぷしてないと思う
りお:あー、なんかどっかで、普通の人は、生きてるだけで死にたくはならないっての見たことあってさ
わかな:うん
りお:嘘やん?って思ったわ
わかな:嘘やんな
りお:ね。いや、普通が何かとか知らんけど、そんな爛々と生きていられるもんなの?
わかな:無理じゃない?
りお:無理でしょ
わかな:だよねえ
りお:そんなことできたら、衝動的に薬ざざーってしてないんよ
わかな:ほかの人って、普段何考えてるんだろ
りお:え、仕事のこと?とか?
わかな:え、仕事にそんなに脳のキャパ割く?
りお:いやー、下っ端だからわかんないっすわ
わかな:悩まなくはないけど、仕事の悩みより、生存の悩み
りお:生存の悩み、でかすぎわろた
わかな:未遂まで起こしてる人の言えたセリフか?
りお:あーあー、眠ってる間に全部終わってないかなー
わかな:いちばん理想的じゃん
りな:生きるのしんどいし、自己肯定感ないし
わかな:うん
りお:でも痛いのも、苦しいのも嫌ーって、だいぶわがままだよね
わかな:自己肯定感高かったら、もっと生きやすかったと思う?
りお:高かったことないからわっかんないわ
わかな:それなー
りお:もっと気負わずに生きてくほうが賢いんだろうけどなー
わかな:賢くないでーす、無理でーす
りお:当たり前に当たり前のこと言うけどさー
わかな:んー?
りお:わたしはさー、わかなが死んだら悲しいよ
わかな:そりゃあね
りお:自分の両親や、他の友達や、なんなら会ったこともないネットだけの繋がりの人だって、死んだら悲しい
わかな:そうだね
りお:でも自分の存在は、すごーく嫌なんだよなあ
わかな:そうなあ、わたしだって、りおが死んだら悲しいよ
りお:だよねえ、解ってるんだけどなあ
わかな:なーんかさあ
りお:ん?
わかな:世界はきれいで、光はやさしくて、自分が好きでいる人たちはちゃんと生きてて、幸せで、恵まれてるはずなのにさ
りお:うん
わかな:そんなことがぜんぶ、なんか悲しくて仕方がない時がある
りお:取り残されるよねえ
わかな:そうそう、取り残されるの
りお:楽しいことや幸せなことが全く無い、なんてことないのにね
わかな:それなりに小さい幸せはあるよね
りお:そうそう。たとえばいまはさ、いちごミルクが美味しい
わかな:美味しいって幸せよね
りお:あ、さいきんオクラにはまっててさ、茹でたのを延々食べてる
わかな:ああ、いいなあ
りお:この前買った服めちゃくちゃ可愛くてさ、これ着て出掛けるの楽しみだなーって思うし
わかな:うんうん
りお:なのに、なんかなあ
わかな:虚無を常に飼ってるよね
りお:そうそう
わかな:飼いならせないよねえ
りお:わりと暴走しっぱなしよ、なんかもう、どっちが主かわからん
わかな:そーれー
りお:なんかさあ、心にバケツがあったとしてさ
わかな:うん
りお:よくそのバケツがあふれたときに、心身症が起こるとか、自傷をするとか、言われるけどさ
わかな:そうだね、そう言われるよね
りお:そもそもバケツの底抜けてて、何入れても素通りなんじゃない?って思う
わかな:それだともう溜まりようがないよね
りお:そうそう
わかな:ちゃんと底があって、何か褒めてもらえたり、認めてもらえたりしたときに、筒抜けにならずに溜まってくれたら、もう少し生きやすいのかなあ
りお:素通りして全く溜まらないの、せっかくいろいろもらってるのに、申し訳なくなるよねえ
わかな:かなし。虚無だわ、虚無
りお:何か出来ることないといけないーって思っちゃうよね
わかな:何も出来ることなんてないのにねえ
りお:もう息吸って吐いてるだけで偉いんよね
わかな:それなすぎる
りお:毎日それなりにこなして、毎日穏やかに居たい
わかな:ていうか、わたしら、打ちのめされるハードル低すぎるんよね
りお:ていうか周りが強すぎる説ある
わかな:基準とか標準ってドコー?
りお:あったとしても、もうそこに沿える気がしなーい
わかな:弱者にやさしくしてくれ
りお:いや、なんだかんだ言いながらちゃんと生きてるわたしらは、別にそんな弱者でもないのよ
わかな:まあまあまあ、ただのわがまま人間と言われれば、そう
りお:ほんとそう
わかな:絶対ぐだぐだ言いながらも、寿命まで生きるんよ、わたしらみたいなのは
りお:わかりみが深すぎて
わかな:そんで死ぬ間際になったら絶対、死にたくなーいとかほざくんよ
りお:なんかあれよなー、卑怯というか、偏屈というか、ただ卑屈なだけというかー
わかな:理解してて治せてないの、ほんとタチ悪い
りお:そーれーなー
わかな:まあでも、わたしにはりおが居るし
りお:お?
わかな:めちゃくちゃ助けられるわけじゃないけど、何でも話せるってのは本当に、有難い存在だわ
りお:それなー。しんどいって言ったときに、大丈夫?じゃなくて、しんどいよなーって受け流してくれるの、めっちゃ楽
わかな:大丈夫?って訊かれたら、大丈夫としか言えんしな
りお:ていうか大丈夫な範囲なら誰にも頼ってないんよ
わかな:それな。そのへん強かよな、わたしら
りお:ずるがしこ
わかな:ずるがしこいから生きてるんやろなあ
りお:なんかもう、石とか、空気とか、そういうのになりたい
わかな:諸々を放棄し始めた
りお:脳みそいらーん
わかな:プラナリアになろ
りお:不死身じゃん
わかな:不死身ではないやろ
りお:プラナリアってあれやろ?切っても分裂するやつ
わかな:そうそう
りお:不死身やん
わかな:いや、乾いたりしたら一応死ぬみたいよ
りお:へえー
わかな:プラナリア見てるとさ、なんか、そこまでして生きる?みたいな気持ちにならない?
りお:あー、まあ、生物は一応、種の保存が目的だからねえ
わかな:保存する気のないわたしらの存在意義
りお:それ考えちゃダメなやつ
わかな:でも人間じゃなかったら、ここまであっぷあっぷしてなさそう
りお:それはー、わかる
わかな:まあそもそも、自分程度であっぷあっぷすんなよってね
りお:ほんと、自己肯定感ないね?
わかな:ない!
りお:どこで落としてきちゃったんだろー
わかな:幼児期健忘の間に、宇宙人にさらわれて、吸い取られちゃったんじゃない?
りお:宇宙人はその吸い取った自己肯定感、どうすんの?
わかな:え、食べて自分のものにするんでしょ
りお:食うのか
わかな:もぐもぐ
りお:他人の自己肯定感て、お腹壊しそう
わかな:なんで?
りお:なんか身体に合わない気がする
わかな:えー、じゃあ食べないのかな、どこかに捨てられた?
りお:盗られ損すぎる
わかな:たしかに
りお:んーっ!(伸び)なんかめっちゃ喋った。わかな、明日仕事は?
わかな:休み
りお:え、いいなー、わたしは朝から出勤だわ
わかな:え、じゃあこんな夜遅くまで駄弁ってる場合じゃないじゃん
りお:まあまあまあ、なんとかなるて
わかな:睡眠は大事だぞー
りお:仕事に差し支え無い程度にはちゃんと寝とるわ
わかな:ふーん?
りお:まあでも、そろそろ帰ろっかー
わかな:そだねー
りお:さー、わたしは帰ったらさっさと寝よー
わかな:わたしはどうしよ、つまみ細工の続きでもしよっかな、眠くないし
りお:ほー。ちなみに、どんなの作ってんの?
わかな:いまは、ユリの髪飾り
りお:めちゃくちゃ可愛いやん。見てないけど
わかな:めちゃくちゃ可愛いよ、見せてないけど。ていうか完成したらあげるよ
りお:えっいいの?やった
わかな:お揃いしよ、お揃い
りお:友達っぽーい
わかな:いや、親友なんよ、わたしら
0:ふたりで笑い合いながらフェードアウト




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