おやすみ
僕の住処は、いわゆるボロアパート
すぐ近くに線路があって、定期的に鳴る
警報機と速度の通る音
その音を安心材料にして、僕は此処で眠る
人間は、よほど嫌な記憶はしまったまま
思い出せなくなることがあるらしい
ずっと霞かかった頭で
これからのことを考えてみても
霞が枷になって引き摺り込まれてしまう
その霞を払う方法は知っていた
知っていても、僕が安心を得る唯一の手段は
丸ごと放棄してしまうという選択しかなかった
そんなことで、人間は死ねないんだよ。
希望を求めるという行為の意味が
僕にはいまいちピンとこなくて
これは憐憫?それとも叱咤か
不都合に還されるあらゆる助言も
雑音、雑音、聞き流したい意思の話ではなくて
そうではなくて
仕組みが決まってしまっていることを
そこに僕は無関係であることを
理解しろそして上を向けと糸で引っ張り上げられる感覚
わかりやすく情報が得られるから辞典が好きな僕を
いつも勉強不足だねと笑う声を
耳障りに感じる僕の特性が悪いのか
それとも雑音を生み出す器官が悪いのか
犯人探しをしたいわけではないのに。
掛かる言葉の先が見えないから
指差し確認して確かめて
不安に煽られてまた勘違いしていたら
宗教に成っておぞましさを得たよ
残念だよね見えてるものを
同じにしようとしても神様は出てこないよ
ああ僕はきっとそのうち誰かから殴られるんだろうな。
愛するものはみんな死んだし、これからも死ぬ
一緒に死にたいと思う主我の塊を
どうにか飲み込んではくれまいか
失うのが怖いと思う訳の分からない幼さを
どうにかこうにか、宥めてはくれまいか
役割分担をしたいんだ
自分なら胸を張って可能だといえることを
僕のわがままで矯正したいんだ
無駄な殺生は趣味ではないんだよ、僕は。
亡くなってすぐに然様ならを言えたら良いのに
忽然と消えたサイレンの音と光に騙されたまま
亡骸を認識出来ないままきっとそれこそ終わるまで
死ぬまで
苛まれるのが判ってしまう
自分の声を聞きたくなくて耳を塞いだのに
一緒に周りの声もわからなくなってしまった
霞は取れない、剥がすのは怖い
行先のわからない終わりを示す亡骸が怖い
身代わりに僕が死ねたら終わりが見えるのかな。
可哀想に、代わってあげたい
そう言われたことを思い出してしまって
口から溢れる気味の悪い音の受け皿がない
じゃあ代わりに生きて、代わりに死んで、
過程と結果だけ僕の知的好奇心の前に並べてよ
自分大事のお気持ち表明
詰めの甘い理論武装
主張を鎧で物理的に弾き返す無駄な時間
自傷行為しか術を持たない哀れな子どもに
差し出せるものが毒物しかないなんて
それも致死量の持ち合わせは無いんだよ
僕は自分の手でもう狐も鳩も作れるのに。
僕の住処は、いわゆるボロアパート
すぐ近くに線路があって、定期的に鳴る
警報機と速度の通る音
その音を安心材料にして、僕は此処で眠る
眠れる限り、眠る
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