一寸先も僕


あれもそれもこれも
要らないものばかりだ
必要なものだけを手元に置けば
もっとすっきり生きられるのに
寂しい寂しいぼくは
ぼくにとっては必要なくても
ものにはぼくが必要なことに
安心と虚栄を見出している

いっそ捨てて離れてしまおう
しかし後処理はどうしよう
固形は消えて無くなりはしないのだ
この子たちにはきみが必要なのに
無責任だと罵られるのもごめんだし
それなりに良心の呵責だってある

解明されない頭の中を
やれAだから
やれBだから
いいやCだからと論じても
なにもひっくり返らないし
なにの手助けにもならないよ

"正常"を仮にDとして
早くDに"成りなさい"と言われても
とおい宇宙の話みたいで
現実感を全く帯びない
Dは概念であり思想でもあるが
能力値の話でもあるのに
"成りなさい"と促されたところで
規則的でないぼくらには
"成す"の言葉が成立しない

手元に置く過程では
きっと必要だったのに
こうもあっさり要らなくなるのは
ぼくにも中身が無いからか
すっからかんのぼくの中を
早く埋めて隠さないと
とても人前には出られない
ぼくは満たされているのです
ぼくは寂しくありません
ぼくは必要とされています
ぼくは寂しくありません

疑問や嘆き、負の感情が
定期的にぼくのもとにやってくる
他人であっても自分であっても
ゆがむというのはきっと醜く
耐えがたくうまく飲み込めず
冷や汗とともに時間の経過を待つのみで
へたりこんだまま動けない

憂鬱な日曜日の午後
おもちゃ箱におもちゃを仕舞う
乱雑に、手当たり次第投げ入れる
ぶつかって、カツン、カツンと
壊れかねない音を聞いて
壊れればいよいよゴミかなあとか
壊れれば埋葬できるかなあとか
生命もないのに慈しむなあとか
慈しむわりに拒絶してるなあとか

箱では足りないおもちゃたちに
「ぼくはなんて声をかけたものか知ら」

このままではならない、と思いつくたび
対比で出てくる問いかけに
誰か答えてはくれないか
いままでも何度もなされたであろう
単純かつくだらない問いかけだ
どうしたものか、問うたところで
ぼくはぼく以外に移り変われないのだけれど

「みんな」が語る"みんな"の範囲に
誰ひとり居ないことに気が付いて欲しい
「みんな」の中で得意げなきみたちは
断続であって連続ではない
ぼくはずっとずっと断続して確立なのに
「みんな」擬きはみんな同じ貌で
いっそ美しさも慎ましさもない
成れの果て

動かせる肉の塊は
五感を使って安心を得る
あれもそれもこれも
要らないものばかりで自分を囲って
透明な不安を埋めて隠すのだ

ああ。
ぼくは満たされているのです。
ぼくは寂しくありません。
ぼくは必要とされています。
ぼくは寂しくありません。

惜しいのはいつだって
きみがぼくでは無いことだけだ



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